2021年7月12日 (月) 治験は継続中でもワクチンが承認される訳とは? - 新型コロナワクチンの安全性評価について専門家が解説 - 黒川友哉

3 months ago
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https://news.yahoo.co.jp/articles/ae7adca308a434795e1e54ecf1428a87f0bb595b

国内の新型コロナワクチンの累計接種人数は、7月11日現在で3600万人を超えた。先月、Yahoo!ニュースVoiceにて新型コロナワクチンに関する記事を掲載したところ、コメント欄に「このワクチンはまだ治験が終わっていないのに安全だというのはおかしい」という投稿が見受けられた。
そこで、新型コロナワクチンの治験の状況と安全性の確認について、新型コロナウイルスに関する正確な情報を届けるプロジェクト「こびナビ」の事務局長でもある、黒川友哉(くろかわともや)医師にお話を伺った。(Yahoo!ニュース Voice)

新型コロナワクチン情報まとめ - 国内の接種状況
治験継続中か否かは医薬品の有効性、安全性を語る上であまり重要ではない

新薬の治験と承認の流れ(画像制作:Yahoo! JAPAN)

実は治験が終了しているかどうかは医薬品の承認の可否において重要ではありません。
もちろん、一般的には治験が終了してから薬の有効性・安全性などが評価され、承認されることが多く、その後も引き続いて「市販後調査」という安全性の調査が行われます。
今回の新型コロナワクチンの治験には、この市販後調査の内容まで含まれており、治験が終わる前に承認に必要な有効性や安全性の評価が行われています。このように、治験中の結果から薬の有用性が示され承認された薬は、これまでもたくさん存在しています。
重要なのは、薬による副作用などのリスクを上回るメリット(有効性)が、きちんと信頼できるデータによって示されているかということなのです。

医薬品安全性評価の枠組み(画像制作:Yahoo! JAPAN)

ですからいま巷で治験が終わっていないだとか、いま続いているあれは第4相試験なのだとか議論がされていますが、結論から申し上げますと、海外第3相治験は、既に参加された方の経過観察のために継続中です。ただし、治験継続中か否かは医薬品の有効性、安全性を語る上であまり重要ではありません。

今回の新型コロナワクチンで重要なのは、治験において、副反応が十分にコントロール可能であるということが示され、95%という極めて高い発症予防効果が科学的に証明されたことです。(※参考文献[1])
少なくともこのパンデミックを収束させるのに有用な薬である、と世界中で評価されています。

現在治験が続けられているのは、そこからさらに有効性がいつまで続くのかということと、理論的には考えにくいですが、長期間を経て出現するような副反応が本当にないのか、というデータを得るためなのです。これについても既に多くのことがわかっています。(※参考文献[2])

メッセンジャーRNAはとても壊れやすく、長期の影響を与えることはない

mRNAワクチンとDNAの関係(画像制作:Yahoo! JAPAN)

とはいえ、データもないのにやはり数年後の安全性が不安だ、という声を伺います。特に長期の安全性としてよく聞かれるのが、「このワクチンは遺伝子が使われていると聞くけど、自分の遺伝子への影響はないのか」といったものです。

今回のmRNAワクチンで使用されている「メッセンジャーRNA」というのは、体に保存されているDNAから、細胞などのタンパク質を作るための中間物質です。メッセンジャーRNAは、凍土の中に埋もれていたマンモスからでも得られるDNAのように丈夫なものとは違い、とても壊れやすく、研究で使う時も、壊れないように細心の注意が必要です。

さらに、予防接種で体内に打たれたメッセンジャーRNAは、細胞の中に入っても、DNAが鎮座する「核」の中に行きつく前にタンパク質を作るために使われてしまったり、分解酵素によって破壊されてしまうのです。
そもそも核の膜の特性上、外側から内側にメッセンジャーRNAが入る仕組み自体がないのです。例えばこれらを何とか免れて奇跡的に核の中にメッセンジャーRNAが入ったとしても、DNAに組み込まれるためには、メッセンジャーRNAからDNAに変換し、さらにDNAの中にうまく入り込むための隙間が必要ですし、その変換したDNAを組み込むための特殊な酵素が必要なので、これらのことは人間ではまず起こらないと考えられています。
一般的なワクチン開発の有害事象収集期間は2~4週間、しかし新型コロナワクチンは1年以上

ワクチン開発での有害事象の収集期間(画像制作:Yahoo! JAPAN)

ワクチン開発の観点からも、一般的な国内ワクチン開発では有害事象の収集期間として、不活化ワクチンで2週間、生ワクチンで4週間が目安と言われている中で、今回のワクチンが1年以上かけて長期の有害事象を探すという点は、むしろ科学的に慎重かつ誠実な姿勢で開発が進められているということがわかります。(※参考文献[3])

ちなみに、「治験が終わっていない」という言葉の連想から、ワクチン接種会場で、実はプラセボ(生理食塩水)を接種される可能性があるのではないか、という誤情報も飛び交っています。
これについて、既に治験の組入れ(治験に参加すること)は終了しておりますし、きちんとした説明と同意を行わずにいつの間にか治験に参加しているということは、どのような場合であってもまずありえませんので、あなたが生理食塩水を接種される可能性は当然ありません。

未知に対する恐怖心は人間として当然の反応

さまざまな誤情報や、不安をあおる情報をしばしば見かけて、不安になってしまうこともあるかもしれません。今回の新型コロナワクチンは極めて有効性が高い一方で「新しい予防接種」ですので、皆さんにとって未知なことも多いかもしれません。

未知に対する恐怖がなければ人間は繁栄してこなかったので、不安に思う気持ちは当然の反応です。
今回のように治験が終わっていないと聞いて不安という方は、有効性・安全性が示された上で世界中でこのワクチンが使用されていることや、治験で証明された高い有効性や優れた安全性が実際の世界でも示されているということを知っていただきたいと思います。
未知なるものに向き合う際は、科学的な正しい情報を冷静にご理解いただくことが大切です。

<参考文献>
[1]Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine | NEJM
    https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2034577
[2]Safety of COVID-19 Vaccines | CDC
    https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/safety/safety-of-vaccines.html
[3]感染予防ワクチンの臨床試験ガイドライン - 000208196.pdf (pmda.go.jp)
    https://www.pmda.go.jp/files/000208196.pdf

記事監修:こびナビ 新型コロナワクチンに関する正確な情報を届けるプロジェクト

解説者:黒川友哉(くろかわともや)
こびナビ事務局長
耳鼻咽喉科専門医、薬事規制
千葉大学医学部卒業後、国立病院機構 千葉医療センター、千葉大学医学部附属病院、東京都立駒込病院を経て、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA) 新薬審査第5部 審査専門員。その後、千葉大学大学院 医学薬学府 博士課程を経て、現在 千葉大学医学部附属病院 臨床試験部 助教及びPMDA 定期専門委員

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